介護は、利用者がその人らしく社会生活を維持できるように、適度に、そして適宜に、提供されなければなりません。
お年寄りは数十年の過去の上に、今の生活を組み立てています。
そこで介護者は、今の生活を見て、過去の数十年を把握し、これからのその人らしい生活を想像し、それに役立つ介護を決定し、適宜に提供しなければなりません。
今の生活を見るとき、在るものを在るように素直に見ることが出発点です。そしてそれが案外と難しいようです。
同じ所で同じペースで生活している人でも、そのこだわる部分や強弱は人それぞれに違います。
その人その人に応じて生活が見えなければなりません。鋭い観察力が必要です。そこでは観察者の価値観は邪魔になります。
ひと先ず自分の感覚を捨てて、見えるものを素直にスケッチして下さい。この観察力が介護職にとって終生の基本です。
何年経験しても絶えず立ち戻るべき基本です。
介護は正解が一つ、という業務ではありません。同程度に正しい答えが幾つも在ります。介護者は、利用者本人の感覚に添って状況を判断し、本人の価値観に添って理論展開して、一つの結論を導き出すことが求められます。
介護職には、様々な異なる価値観に添った理論展開と、その先に在る生活をイメージするトレーニングが重要です。それを数多く経験し、他人の立場で思考し生活をイメージできたとき、介護専門職として、その人その人に相応しい生活実現への出発点に立てるのです。今の自分の感覚と価値観を出発点にする事は、厳に戒めたいと思います。